宿毛市沖の島町は、宿毛市から洋上24キロメートルに位置し、沖の島・鵜来島・姫島などからなる高知県唯一の有人離島である。集落の石垣、石段、島独持の建築様式「干棚」など長い年月をかけて景観や建築様式が形成されてきた。
しかし、戦後は3000人程度までいた島の人口は、過疎化や少子高齢化にともない現在は300人を切っている。集落では、空き家・空き地の増大が顕著であり、鵜来島においては高齢化100%の限界集落となっており、集落そのものの存在が危惧されている。
島の魅力を高める取り組みとして、2009年に「沖の島アートプロジェクト実行委員会」が結成された。鵜来島の現状に対し、私たちが学んでいる「建築・空間」を取り入れ、島の資源を様々な角度から価値付けをして、島の人々の暮らしに貢献できる「ケンチク・クウカン」を模索し、『沖の島アートプロジェクト』に向けて建築を一つの作品として制作する。
実際、アートを通じた地域の活性化は既に前例があり、沖の島が同系列のものだとしたら、それは二番煎じに過ぎず、あまり新鮮みがないと私たちは考えていた。しかし、それが、高知という場所の底からの叫びということを理解したとき、初めて島でプロジェクトを行う意義だと感じた。
高知の人が、高知という場所で、高知のために行うプロジェクト、それが沖の島アートプロジェクトの本義であり、揺るがしてはならない本質ではないか。
沖の島アートプロジェクト活動経歴
2009年8月 沖の島アートプロジェクト発足
2010年3月 沖の島アートプロジェクト2010春 開催
2010年6月 日本建築学会設計競技「小さな島の大きな家」四国支部入選
2010年8月 沖の島アートプロジェクト2010夏 開催
2010年12月 経済産業省主催 社会人基礎力育成グランプリ奨励賞受賞
2011年8月 沖の島アートプロジェクト2011 開催予定
高知県の南西の海上に位置する沖の島は、海で隔てられているが故に急激な開発がなされてこなかった。そのため人の生活の営みが自然と呼応した昔ながらの暮らしを現在も見ることができる。計画の舞台となる母島集落は急峻な斜面地を造成し、寄り集まった住処としての魅力がある。しかし、少子高齢化や過疎化が深刻で、集落の存続に関わる厳しい現実の直中に立たされている。
集落の場所としてのポテンシャルは大きく、それを生かし活用していくための可能性を模索する。そこで、私たちは集落の過疎化による人口の島外への流出に伴う、空き家や空き地といった「余剰空間」に着目し、それらを地形の特性を手掛かりに、再編していくことを考えた。
過疎化や高齢化といった現象は、集落のコミュニティの崩壊を招く一要因として挙げられ、そのことが集落の文化や伝統をも損失させる影響度は深刻である。島の人口減少率は著しく、現在に至っては昭和25年の最盛期の1割となってしまっている。その結果、増加する余剰空間を活用することは、島を再活性化する可能性を秘めている。
余剰空間の活用手法として、既存集落に刺激を与え、相互作用を引き起こす活性要素を加える。それが、人と生活の営みと島の気候風土が呼応し、場に新しい価値を与えることを意図している。
ポストモダンの一時の狂騒をのぞけば、20世紀後半以降の建築の多くは、彩りとは無縁の世界にあるといえるではないだろうか。建築家はあたかも色を回避するかのように無彩色や木の色以外の有彩色の使用にはおおむねストイックである。
21世紀に入った頃から建築の色は、少しづつ息を吹き返し始めている。色は居住空間で重要な役割を担う要素であることが設計者の側から、またユーザーの側からも理解され求められている。ホワイトボックスを覆うシンプルな白は、禁欲的な「地の色」ではありながら、他の色を抑圧する作用ももっている。どの文化の造形物にも表われているように、環境の色、文化の色、時代の色があるが、これを統括し抑圧もするのがユニバーサル・カラーである白であった。ユニバーサリティやインターナショナリティを標榜したモダニズムのスタンダードとなる色が白やグレーに支配されたのは必然である。かくして建築における色彩はスケール等と同様に、ある意味でモジュール化され、設計を妨げないマイナー・ポジションに置かれていた。ホワイト/グレー・ボックスは実用的であり、オプティマム (最適)な善意の選択ではありつつも、設計する側にとっては安全でオールマイティな、それゆえ時には非創造的な解でもありうることを再考してみたい。とりわけインテリアでの色の使用においては、色彩の調和を量って、色の諸相のバランスポイントを探し求めるという従来のやり方だけではもはや新しい空間は生まれにくい。それ以外の立脚点を設計者が探し出すことから新しい色彩の冒険と哲学が始まるだろう。それは環境ばかりでなく、ユーザーのエモーションや空間のコンセプト、物語性、空気感などにも深く関わり、よりヒューマンなものとの関係を考慮した色彩を求めることにほかならない。建築家たちの中にはこの作業を意識・無意識に行なっている者もいる。
そこで、本プロジェクトでは「鵜来島の持つ色」を考察しながら色の諸相のバランスポイントを探し求める従来の手法とは違う、新たな構成を見出すことを目的として位置づけたい。
Suguru Kawashima
「それぞれの記憶」島に一つだけのアートギャラリー
鵜来島の高台に今は朽ちかけた旧小学校の体育館が残っている。
雨ざらしで繊維だけが残る壁面、体育館だった面影を残す黒板や朽ちた卓球台など、荒れ放題の空間の中にも島の人の生活の匂いが残っていた。そこで、島でただひとつのアートギャラリーへ改修した。それぞれのアーティストが独特の空間とマッチさせた作品を制作し展示を行う。そこで、腐食箇所の補修と耐震補強を行いながら、この空間が持つ魅力を最大限に活かすリノベーションを展開した。今までは誰も来なかった場所に人は足を運ぶ。作品の鑑賞と同時に子どもの時の体育館での思い出に浸る。 【スライドショーを見る】
2011年8月1日
「ケンチククウカン実験」Webサイト公開
沖の島アートプロジェクト「ケンチククウカン実験」のWebサイトを公開しました。